海洋生分解性プラスチック課題への技術的アプローチ
生分解を左右する「代謝的孤立」の克服
1. はじめに
海洋へ流出するプラスチックごみの世界総計は、推定で年間約1,100万トンという膨大な量と見積もられている。これらのプラスチックごみの一部は、海洋環境において紫外線や波浪の物理的な力によって微細化し、マイクロプラスチックとして海洋生態系のあらゆる層に拡散・蓄積している。この深刻な状況を背景に対して、生分解性プラスチックが解決策の一つとして注目されている。一方で、現状、生分解性プラスチックとして市場に出ている材料の多くは、堆肥(コンポスト)や、土壌、あるいは陸水環境で、生分解性発現するものの、海洋環境では、その生分解がほとんど進まないという大きな課題を抱えている。
例えば、代表的な化学合成脂肪族ポリエステルであるポリ(ブチレンスクシネート)(PBS)は、堆肥条件下では生分解するにもかかわらず、海水中では、ほとんど生分解しないことがわかっている。一方で、海洋環境であっても、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)やポリ(ε-カプロラントン)(PCL)は生分解する。
このような海洋で生分解する材料を見極めるためには、材料の崩壊が海水中で生じるかどうかを理解するだけでは不十分であり、当該環境で微生物がその材料の分解物を完全に代謝できるかどうかを理解する必要がある。
PBSは、構造的には単純な脂肪族ポリエステルであり、ある種の酵素により加水分解を受ける。しかし、それが海洋でほとんど生分解されない根本的な理由は、PBSが海洋環境中での代謝ネットワークから生態学的に孤立している(代謝的孤立)ためであると推定される。